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最高裁判所第三小法廷 平成3年(オ)1503号 判決

主文

一  原判決のうち、別紙一覧表記載の被上告人らの請求に関する部分を破棄し、右部分に関する第一審判決を取り消す。

二  別紙一覧表記載の被上告人らの請求に係る本件訴えを却下する。

三  上告人のその余の上告を棄却する。

四  第一項及び第二項の部分に関する訴訟の総費用は同項記載の被上告人らの負担とし、第三項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

一  上告補助参加代理人戸水武史、同塩谷脩の上告理由の第二について

1  本件訴えは、被上告人らから上告人に対し、上告補助参加人が上告人の代表役員でないことの確認及び上告補助参加人が上告人の代表役員に就任した旨の登記の抹消登記手続を請求するものであるところ、原審は、被上告人らは上告人の氏子であり、上告人の存立、運営について利害関係を有するので、右確認等を求める利益を有するとして、本件訴えにつき被上告人らの原告適格を認め、その請求を認容した第一審判決を維持すべきものと判断した。

2  しかしながら、原審の右判断のうち、本件訴えにつき上告人の氏子にすぎない者にも原告適格を認めた点は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。

(一)  本件訴えは、被上告人らが、自らの地位ないし権利関係についての確認等を請求するものではなく、上告補助参加人が上告人の代表役員の地位にないことの確認及びこれを前提に前記登記の抹消をそれぞれ請求するものであるから、その訴えの利益、また、したがつて原告適格を肯定するには、組織上、被上告人らが上告人の代表役員の任免に関与するなど代表役員の地位に影響を及ぼすべき立場にあるか、又は自らが代表役員によつて任免される立場にあるなど代表役員の地位について法律上の利害関係を有していることを要するものというべきである。

(二)  そこで、この点を検討するのに、神社の氏子とは、従来の慣行による氏子区域内に居住して氏神(神社)を崇敬し、神社の維持について義務を負う者であり、宗教法人法にいう信者に当たると解されるが、同法は、信者の地位に関し、宗教法人の設立(同法一二条三項)、その重要な財産の処分等(二三条)、解散(四四条)等一定の重要な事項について信者に公告すべき旨などを規定するにとどまり、信者の権利ないし義務について特段の定めを設けていない。一方、同法は、責任役員については、宗教法人には三人以上の責任役員を置き、そのうち一人を代表役員とすること(一八条一項)、代表役員は、規則に別段の定めがなければ、責任役員の互選によつて定めること(同条二項)、責任役員は、規則の定めるところにより、宗教法人の事務を決定すること(同条四項)、責任役員が欠けた場合等には、責任役員に代わつてその職務を行う代務者を置くべきこと(二〇条)などを規定している。

また、原審の確定した事実関係及び記録によると、上告人の定めた宗教法人「能登生国玉比古神社」規則(以下「本件神社規則」という。)には、(1) 上告人の機関として、責任役員、代表役員、責任役員によつて構成される役員会、氏子総代及びこれによつて組織される総代会を置くこと(第二章)、(2) 役員の選任等につき、代表役員は責任役員である宮司をもつて充て(九条)、宮司の進退等は責任役員等の具申により神社本庁統理が行うこと(二〇条)、代表役員以外の責任役員は氏子又は崇敬者の中から総代会が選考し、代表役員が委嘱して行うこと(一〇条)、氏子総代は氏子又は崇敬者の中から役員会の定めるところにより選任すること(一六条)、(3) 役員の任務等につき、代表役員は上告人を代表し、その事務を総理すること(八条)、責任役員は役員会を組織し、宗教上の機能に関する事項を除く外、上告人の維持運営に関する事務を決定すること(八条)、氏子総代は総代会を組織し神社の運営について役員を助け、宮司に協力すること(一五条)などが定められているが、氏子については、右のとおり責任役員又は氏子総代に選任されることがある旨の定めがあるほか、氏子は氏子名簿に登録されるとともに、登録された氏子は公告の対象になる旨(三七条)が定められているにとどまる。

右のとおり、宗教法人法及び本件神社規則によれば、上告人の責任役員は、代表役員の任免に直接関与する立場にあり、また、氏子総代も、総代会の構成員として責任役員を選考し、ひいては代表役員の地位に影響を及ぼすべき立場にあるということができるから、上告人の責任役員及び氏子総代は、いずれも上告人の代表役員の地位の存否の確認等を求める訴えの原告適格を有するというべきである。しかしながら、氏子は、上告人の機関ではなく、代表役員の任免に関与する立場にないのみならず、自らが代表役員によつて任免される立場にもないなど代表役員の地位について法律上の利害関係を有しているとはいえないから、右確認等を求める訴えの原告適格を有しないというべきである。

(三)  そして、原審の確定した事実関係及び記録によると、被上告人らのうち、別紙一覧表記載の被上告人ら(以下、「被上告人片山ら」という。)を除くその余の被上告人らは上告人の責任役員ないし氏子総代の地位にあり、本件訴えの原告適格を有すると認められるが、被上告人片山らは上告人の氏子にすぎず、本件訴えの原告適格を有しないというべきである。

そうすると、被上告人片山らの原告適格を認めた原審の判断には、法令の解釈適用を誤つた違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの限度で理由があり、被上告人片山らの請求に関する部分につき、原判決は破棄を免れない。そして、前記説示に照らせば、第一審判決を取り消し、右請求に係る訴えを却下すべきである。

二  その余の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右認定に係る事実関係の下においては、神社本庁統理が上告補助参加人を上告人神社の宮司に任命した行為は本件神社規則二〇条所定の適法な具申を欠くものとして無効であり、したがつて、同規則九条による上告補助参加人の代表役員への就任もまた違法無効であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程にも所論の違法は認められない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づき若しくは原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条一項、九六条、九三条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 尾崎行信 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫)

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